でもってテストステロンですか?

 去勢が男性の寿命に、初潮や閉経の時期が女性の寿命に関係しているとの報告があるので、まず女性ホルモンの代表であるエストロゲンを調べてみた。マウスを用いた実験などでは寿命が伸びる効果が報告されている。マウスに効果のある薬剤が人間にも効く確率はザクっと30%と私は考えていますからデータを見るとき注意が必要です。あくまでもヒトでの臨床試験の結果が基本となりますが以前にも述べたように臨床試験には莫大な費用がかかるので製薬会社も基本的に特許を持っていて、患者数が多いものしか手をだしません。私のスタンスは、ならばマウスなどのデータを基に自己責任で人間にも効果のある、この30%のサプリや薬を使用しようと言うものです。さて以下東京大学医学部老年病学教授の秋下先生の性ホルモン投与に関するインタビュー記事によると

ヒトでも動脈硬化を抑えるなどの報告があったため1995年にアメリカ心臓病協会(AHA)が心臓病予防のためすべての女性はエストロゲンの投与を受けるべきとコメントした。米国国立衛生研究所(NIH)によりWomen’s Health Initiativeと言うエストロゲン内服製剤の大規模な臨床試験が実施された。ところが、プロジェクトがスタートして約5年後、投与された群で心筋梗塞、静脈血栓症、乳がんが増えるといった、ネガティブなデータが出て、結局プロジェクトは中止となってしまいました。また、認知症も増加するという結果でした。欧米では、WHI以前、閉経後女性の40%程、アジアでは20%程度がホルモン補充療法(HRT)を受けていましたが、この調査が発表されて以降、エストロゲンのHRTも否定的にとらえられるようになってしまったのです。現在エストロゲンHRTに対しては、各国独自のガイドラインが出ています。日本では、急激なホルモン量の変化に体を徐々に慣らしていくまでの暫定的な治療の一つとして最大5年を中止の目安として行われています。5年を超えて継続すると乳がんが増えるからです。日本のエストロゲンHRT実施率は非常に低いのですが、私見では、更年期や閉経直後という方には有効だと考えています。

と言うことで現在は女性の更年期障害の治療のため少数の患者に使用されているようです。

次に男性ホルモンの代表のテストステロンについて調べてみました。去勢で男性ホルモンを丸ごと除去すると長生きするとの報告を前回紹介しましたが、実際は睾丸からは各種ホルモンが分泌されており、また腎臓からテストステロンが分泌されるなどで男性ホルモンすべてが長寿の障害になると考えるのは話を単純化しすぎているようです。

「長期介護施設収容の老人における血漿中性ホルモンと死亡率」(Fukai S, et al. Geriatr Gerontol Int 2011)の報告によると

70~96歳のお年寄り214人(男117人、女97人)を追跡調査した。最初の 6 か月間の死亡を除外した後、男性で 27 人の死亡、女性で 28 人の死亡が、それぞれ平均 32 か月と 45 か月 (最大 52 か月) のフォローアップ中に発生しました。死亡率は、男性の高テストステロングループと低テストステロングループの間で有意に異なっていたが、中位と低グループの間では有意差がなかった。中および高グループの被験者と比較して、テストステロン値が低グループ(<300 ng/dL) の男性は、年齢、栄養状態、機能状態、および慢性疾患に関係なく、死亡する可能性が4倍高かった (ハザード比 [HR] = 3.27、95% 信頼区間 [CI] = 1.24-12.91)。対照的に、低デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩 (DHEA-S) グループは、女性の死亡リスクの4倍の上昇と関連していた (多変量調整済み HR = 4.42、95% CI = 1.51-12.90)。男性の DHEA-S レベルと、女性のテストステロンおよびエストラジオールのレベルは、死亡率とは関係がありませんでした。

また、「高齢の筋肉性能と身体機能に対する 3 年間のテストステロン補充の効果」( 2017 Feb 1; 102(2): 583–593.)の報告によると

60歳以上の健康な男性でテストステロンの肉体的効果を二重盲検比較試験で調べた(N=135にテストステロン、N=131にプラセボを割り当て)。3 年間のテストステロン投与の結果は、プラセボよりも無負荷および負荷のある階段登り降りにおいて有意に優れたパフォーマンスを示しました (推定平均群間差、10.7 W [95% 信頼区間 (CI)、-4.0 ~ 25.5]、P = 0.026;および 22.4 W [95% CI、4.6 ~ 40.3]、P = 0.027)。チェストプレス強度(推定平均差、16.3 N; 95% CI、5.5 ~ 27.1; P < 0.001)およびチェストプレスピークパワーchest press peak power(平均差 22.5 W; 95% CI、7.5 ~ 37.5; P < 0.001)の変化、およびレッグプレスピークパワーleg press peak powerはテストステロン投与した男性グループは、プラセボの男性グループよりもプレス力が有意に高かった。除脂肪体重は、テストステロン群で有意に増加しました。

またテストステロンもDHEAも運動をすると増えると同じく秋下先生がインタビューで述べています。

平均年齢66.8歳、メタボリック症候群予備軍の男性12人に定期的な運動をしてもらい、体の変化をみるという研究を行いました。月に2回ジムでバランス運動、筋力トレーニング、有酸素運動の指導をした後、週5回、自宅での運動を3カ月続けた後の変化をみるというものでした。ここでは、ウエストサイズは変わりませんでしたが、平均で体重は1kg、内臓脂肪面積は22%減少するという結果が出ています。肝心のホルモンも、血中の遊離型テストステロン8.2pg/mlから9.1pg/ ml、DHEAの値も30%上昇したのです。

さらに秋下先生はインタビューでテストステロンは認知症にも効果があるとしています。

私は延べ900人の高齢者を対象にアンドロゲンと認知機能や生活動作などの関係を調べたことがあります。一部の男性にはテストステロン、女性にはDHEAの飲み薬を服用してもらって6カ月間、その効果を調べました。日本では飲み薬は手に入らないため、海外から調査のために輸入した薬剤を使用しました。この調査では、単語記憶や少し前のことを思い出せるかどうかの遅延再生といった機能が改善するという結果が得られています。特にテストステロンを投与した男性群への効果は顕著で、現在使用されている「アリセプト」などの認知症の薬と同程度だったことはもっと注目されてしかるべきではないかと考えています

さて、DHEAは内服薬がありますが、テストステロンは基本注射しかありません。現在テストステロンの体内合成を促進するとするサプリがありますが、本当に運動するよりも効果があるのか今後調べたいと思っています。副作用も知ったうえで上手くつきあっていきたいですね。

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